救急現場で「意識障害」と聞くと、多くの救急隊員が緊張するのではないでしょうか。
突然の意識低下、呼びかけにも反応しない傷病者――このとき最も重要なのは、「緊急安静搬送(Hurry, But Gently)」の判断です。
今回は、国家試験にも頻出の「意識障害の原因」と「緊急安静搬送の適応」について、最新の救急医学的知見を踏まえて解説します。
■ 緊急安静搬送(Hurry, But Gently)とは?
「急げ、しかし穏やかに」という意味をもつこの搬送法は、搬送中の刺激によって病態が悪化するリスクがある傷病者に対して適応されます。
たとえば、脳出血やくも膜下出血などでは、わずかな刺激でも再出血や脳ヘルニアを起こす可能性があります。
▼ 適応となる主な疾患分類
分類 | 主な病態 | 疑われる疾患 | 起こりうる急変 |
---|---|---|---|
A | 高度気道狭窄 | 急性喉頭蓋炎、気道異物 | 窒息 |
B | 換気障害 | 気管支喘息、自然気胸 | 低酸素症、閉塞性ショック |
C | 心機能低下 | 急性心筋梗塞、不整脈、大動脈解離 | 心原性ショック、VF、脳梗塞 |
D | 頭蓋内病変 | くも膜下出血、小脳出血 | 再破裂、脳ヘルニア |
E | 体温異常 | 低体温、熱中症、髄膜炎 | VF、痙攣、多臓器不全 |
これらの疾患では「急変リスクが高いが、現場での処置は限られている」ため、安静を保ちながら迅速に医療機関へ搬送することが最優先となります。
■ 意識障害の原因分類 ― 一次性と二次性を見極めろ!
意識障害は、大きく「一次性脳病変」と「二次性脳病変」に分類されます。
この鑑別は、現場での搬送方針を決定するうえで極めて重要です。
● 一次性脳病変
脳そのものに異常があるタイプで、代表的なものは以下の通り。
- 脳血管障害(脳出血・脳梗塞・くも膜下出血)
- 頭部外傷
- 脳炎・髄膜炎
- 脳腫瘍
- てんかん発作 など
特徴としては、
- 発症が突然で時間を特定できる(例:何時何分に倒れた)
- 高血圧傾向(収縮期血圧180mmHg以上の尤度比26倍)
- 瞳孔不同や対光反射消失(尤度比9倍・3倍)
が挙げられます。
● 二次性脳病変
脳以外の原因で意識が低下するタイプで、全身性疾患が背景にあります。
- 低血糖(インスリン過剰・糖尿病)
- 肝性脳症・尿毒症
- 低酸素血症・CO₂ナルコーシス
- 熱中症・低体温症
- 中毒・脱水・ショック など
こちらは、
- 発症が緩徐で、数時間~数日の経過
- 低血圧傾向(収縮期血圧90mmHg以下の尤度比33倍)
- 頻脈・四肢冷感・発汗などショック兆候を伴う
といった特徴を示します。
■ 意識障害現場での初期対応ポイント
1️⃣ 血糖測定(最優先)
低血糖は最も頻度が高く、治療可能な意識障害です。搬送前に必ず確認。
2️⃣ バイタルサインの把握
血圧・脈拍・体温を基準に、一次性か二次性かの目安を立てます。
3️⃣ 瞳孔・対光反射の確認
瞳孔不同や反射消失があれば脳幹障害を疑い、緊急安静搬送を検討。
4️⃣ 発症時間の聴取
「何時ごろから様子が変か」を聞くことで脳卒中鑑別のヒントに。
5️⃣ 体温異常の確認
低体温ではVFリスクが高く、除細動は原則1回にとどめます。
高体温(40℃以上)はDIC・多臓器不全を伴う可能性があり、三次救命センター搬送が原則です。
■ 搬送中の急変 ― 神経原性肺水腫とたこつぼ型心筋症
出血性脳卒中の傷病者では、搬送中に神経原性肺水腫やたこつぼ型心筋症を合併することがあります。
これは、くも膜下出血などで延髄が刺激され、交感神経が過緊張となるためです。
- ノルアドレナリン上昇 → 血管収縮 → 肺胞毛細血管圧上昇
- 結果:ピンク色泡沫状喀痰・湿性ラ音・急激な低血圧
- 重症例では致死的不整脈やCPAへ移行
このように、高血圧からショックバイタルへ移行する症例は要注意。
搬送中は過剰な刺激を避け、酸素投与と体位保持で安静を徹底します。
■ まとめ ― 試験で狙われるポイント
- 緊急安静搬送は「急げ、しかし穏やかに」が原則。
- 一次性脳病変では高血圧・突然発症、二次性では低血圧・徐々に発症。
- 低体温・高体温はそれぞれVF・DICのリスク。
- 神経原性肺水腫やたこつぼ型心筋症は脳卒中後に起こりうる。
- バイタルと瞳孔所見から搬送方針を立てるのが救急救命士の使命!
救急現場では、診断よりも「見極め」と「搬送判断」が命を左右します。
緊急安静搬送の意義を理解し、意識障害の鑑別を正確に行うことが、国家試験合格だけでなく、実際の現場で命を救う第一歩になります。