■1. 肝臓の役割と重要性

肝臓は体内最大の臓器であり、右上腹部に位置します。重さは成人で約1.2〜1.5kg。
主な機能は「代謝」「解毒」「貯蔵」「胆汁生成」の4つです。

  • 代謝:糖質・脂質・タンパク質の代謝を行い、エネルギーや血糖を一定に保つ。
  • 解毒:アンモニア、アルコール、薬物など有害物質を分解。
  • 貯蔵:グリコーゲン、鉄、ビタミンA・B12などを蓄える。
  • 胆汁生成:脂肪の消化に必要な胆汁酸を作り、胆のうに送る。

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、自覚症状が出にくいのが特徴です。
そのため、病態が進行して初めて黄疸や倦怠感などが現れます。

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■2. 肝機能障害の原因

肝障害の原因は多岐にわたりますが、代表的なものは以下の通りです。

  1. ウイルス性肝炎(A型、B型、C型など)
  2. アルコール性肝障害
  3. 薬物性肝障害(アセトアミノフェンなど)
  4. 自己免疫性肝炎
  5. うっ血性肝障害(右心不全による)

これらの原因によって、肝細胞が破壊されるか、胆汁の流れが障害され、
血液検査でAST・ALT・ALP・ビリルビンなどの上昇が見られます。

■3. 肝臓検査値のポイントとゴロ

国家試験では、血液検査値の上昇パターンが頻出です。

検査項目主な意味上昇する主な病態ゴロ
AST(GOT)肝・心・筋肉障害肝炎、心筋梗塞「ASTはあっ心筋」
ALT(GPT)肝細胞障害肝炎、脂肪肝「ALTはあると肝臓」
ALP胆道系障害胆石、胆道閉塞「アルカリ=胆道」
γ-GTPアルコール性障害飲酒・胆汁うっ滞「GTP=ごく(飲酒)」
総ビリルビン黄疸の指標溶血、胆道閉塞「ビリルビン=びりっと黄疸」

AST・ALTの上昇が著しい場合(1000 IU/L以上)は、急性肝炎を疑います。
一方、ALP・γ-GTPが高値なら胆道系の閉塞やアルコール性障害が疑われます。

■4. 黄疸の種類と機序

黄疸(おうだん)は血中ビリルビンの上昇により、皮膚や白目が黄色くなる状態です。

種類主な原因特徴
前肝性(溶血性)赤血球破壊増加間接ビリルビン↑
肝性肝細胞障害直接・間接ビリルビン両方↑
後肝性(閉塞性)胆石・腫瘍による胆道閉塞直接ビリルビン↑、灰白色便、褐色尿

**ゴロ:「前・肝・後 → せん(前)たく(肝)後」**で順番を覚えましょう。

■5. 代表的な肝疾患と病態

急性肝炎

  • 原因:ウイルス性(A・B型など)、薬物性
  • 症状:倦怠感、発熱、黄疸、右季肋部痛
  • 検査:AST・ALTが著明に上昇(1000 IU/L超)
  • 多くは回復するが、まれに劇症化し肝不全に進行することも。

慢性肝炎

  • 原因:B型やC型ウイルスの持続感染
  • 長期間炎症が続き、線維化が進行
  • ALTが中等度に上昇を持続
  • 放置すると肝硬変や肝がんへ進展する。

肝硬変

  • 肝細胞が壊死と再生を繰り返し、線維化が進む状態。
  • 結果として肝臓の血流が障害され、「門脈圧亢進症」が生じる。

主な症状

  • 腹水(低アルブミン血症+門脈圧亢進)
  • 黄疸
  • 食道静脈瘤
  • クモ状血管腫
  • 手掌紅斑
  • 女性化乳房

検査所見

  • アルブミン低下
  • アンモニア上昇
  • プロトロンビン時間延長

■6. 肝不全と肝性脳症

肝不全では、代謝・解毒・合成機能が著しく低下します。
特にアンモニアを解毒できなくなると、脳に移行して意識障害を起こします。

肝性脳症の症状

  • 意識障害(傾眠〜昏睡)
  • 羽ばたき振戦
  • 異常行動、錯乱

ゴロ:「肝脳フラフラ」→ 肝性脳症+羽ばたき振戦

治療はラクツロース投与やアンモニア産生抑制などが行われます。

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■7. 救急現場での観察ポイント

救急隊として現場で肝疾患を疑う場合、以下の観点が重要です。

  • 皮膚・白目の黄疸
  • 腹部膨隆・腹水所見
  • 意識状態(肝性脳症の有無)
  • 出血傾向(皮下出血・歯肉出血)
  • 病歴聴取(アルコール摂取、肝炎既往、薬物使用)

特に「意識障害+黄疸+腹水」が揃えば、重度の肝機能障害を疑います。
また、低血糖を伴う場合があるため、血糖測定も必須です。

■8. 肝疾患の進行段階と臨床的流れ

国家試験でも問われる「進行の流れ」は以下の通りです。

急性肝炎 → 慢性肝炎 → 肝硬変 → 肝がん

肝硬変を経ずに肝がんを発症する場合もありますが、
多くは慢性炎症が長期化し、再生結節の中でがん化します。

肝疾患では早期発見が重要であり、ALTやHBs抗原・HCV抗体の定期検査が推奨されます。

■9. 肝疾患と循環・呼吸の関係

肝硬変が進むと腹水や胸水が貯留し、呼吸苦や循環不全を招きます。
また、門脈圧亢進によって体液が漏出しやすくなり、血漿浸透圧が低下。
これが循環血液量の低下やショックの一因になる場合もあります。

現場では「慢性疾患でもショック様の血圧低下がある」ことを理解しておくことが重要です。

■10. 国家試験出題ポイントまとめ

  • AST・ALT・ALPの上昇パターン
  • 黄疸の種類と特徴
  • 肝硬変の合併症(腹水・静脈瘤・脳症)
  • 羽ばたき振戦=肝性脳症
  • 慢性肝炎→肝硬変→肝がんの流れ

ゴロまとめ

  • 「AST(あっ心筋)、ALT(あると肝臓)」
  • 「肝脳フラフラ」=肝性脳症+振戦
  • 「ふち脳」=腹水・出血・脳症で肝硬変!

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■11. まとめ

肝臓は代謝・解毒・循環すべての中枢に位置する重要臓器です。
異常があれば全身に影響が及ぶため、救急現場でも「ただの倦怠感」や「軽い黄疸」を見逃さない観察力が求められます。

国家試験では、肝臓の機能と検査値の関連性を中心に出題されるため、
機能 → 病態 → 検査 → 症状の流れを整理しておくことが合格への近道です。

肝臓の病態は、単なる暗記ではなく「機能のどの部分が破綻したのか」を考えることが重要です。
国家試験でも現場でも、「なぜこの値が上がるのか?」を説明できるようにしましょう。

By TETSU十郎

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