― その一言が、救急車の到着と命の行方を左右します ―
119番通報は、人生の中でそう何度も経験するものではありません。
突然、目の前で人が倒れた。家族が苦しみ始めた。事故に遭った。
そんな非常事態で冷静でいられる人は、ほとんどいないでしょう。
「何を言えばいいのか分からない」
「ちゃんと伝えられなかったらどうしよう」
「こんなことで呼んでいいのだろうか」
多くの方が、そうした不安を抱えながら119番に電話をかけています。
この記事では、**救急隊の立場から見て「これは本当に助かる」「これだけは伝えてほしい」**というポイントを、できる限り分かりやすく解説します。
専門知識は一切不要です。
ただし、知っているか知らないかで、結果が変わることは確かにあります。
119番通報は「救急活動のスタート地点」

まず知っておいてほしいのは、119番通報は単なる「救急車の呼び出し」ではない、ということです。
あなたが電話で伝えた内容は、次のような判断に直結します。
- 救急車か、消防車か
- 何人の隊員で向かうか
- AED、酸素、気道管理器具など、どんな資器材を準備するか
- 病院へ事前連絡が必要か
- 医師の指示が必要な事案か
つまり、通報内容=現場対応の設計図なのです。
この設計図が正確であるほど、救急隊は迅速かつ適切に行動できます。
応急手当 ミニハンドブック ― いざというときのための
突然の事故や急病時に、一般の方が「何をすべきか」を簡潔にまとめた実用書。
119番通報後、救急隊が到着するまでの行動を具体的にイメージしやすく、家庭に一冊あると安心です。
一次救急の基本から心肺蘇生・急変時対応までをマンガで分かりやすく解説。
119番通報後の応急対応を、もう一段深く理解したい医療学生・介護職・救急に興味のある方におすすめです。
① 何よりも最優先で「場所」を伝えてください
救急隊が最も困るのは「場所が特定できないこと」
救急の現場で、実は最も時間を奪われるのが「場所の特定」です。
どれほど重篤な症状でも、
救急車は場所が分からなければ到着できません。
そのため、119番通報では必ず最初に「場所」を確認されます。
伝えてほしい情報の順番
理想的なのは、次のような順です。
- 市町村名
- 住所(番地まで)
- 建物名・施設名
- 集合住宅の場合は部屋番号
例:
「〇〇市〇〇町1丁目2番3号、〇〇マンションの302号室です」
住所が分からない場合はどうすればいい?
住所が分からなくても、慌てる必要はありません。
- 近くの目印(コンビニ、学校、スーパー)
- 交差点名
- 国道・県道・高速道路
- 山、川、海などの地形
- スマートフォンの現在地表示
分からない場合は、正直に「分かりません」と伝えてください。
無理に曖昧な住所を言うより、はるかに助けになります。
② 「何が起きたのか」をそのまま教えてください
次に重要なのが、**何が起きたか(状況)**です。
ここで必要なのは、医療的な判断ではありません。
見たまま、起きたままを伝えることが大切です。
良い伝え方の例
- 「父が急に倒れて動きません」
- 「胸を押さえて苦しいと言っています」
- 「交通事故で、バイクの人が倒れています」
- 「階段から落ちて動けません」
専門用語は不要です。
避けてほしい表現
- 「多分大丈夫だと思います」
- 「よく分からないけど」
- 「前にも同じことがありました」
救急隊が必要としているのは、
今この瞬間の状態です。
③ 「意識があるかどうか」は極めて重要です

救急活動において、意識の有無は非常に大きな判断材料になります。
意識の有無の簡単な判断方法
難しく考える必要はありません。
- 名前を呼んで返事がある → 意識あり
- 声は出ないが目を開ける → 意識あり
- うめき声のみ → 意識障害あり
- まったく反応しない → 意識なし
分からない場合は、
「呼んでも返事がありません」
この一言で十分です。
救急車を呼ぶ判断に迷う背景には、
「適正利用」への誤解や、
「様子見して後悔した事例」があります。
▶ 救急車の適正利用と「迷ったら119番通報」
▶ 救急車を呼んでいいのに“呼ばなかった人”が後悔した実例
④ 呼吸の様子を伝えてください
意識と並んで重要なのが、呼吸の有無・状態です。
呼吸確認のポイント
- 胸やお腹が上下しているか
- 息の音が聞こえるか
- 呼吸が極端に速い、遅い
- 「ゼーゼー」「ヒューヒュー」していないか
正常かどうかは判断できなくて構いません。
「息はしているようです」
「呼吸が浅くて苦しそうです」
この情報だけで、救急隊の準備内容は大きく変わります。
⑤ 電話は切らず、指示があれば従ってください
119番通報中、通信指令員から次のような指示が出ることがあります。
- 「そのまま電話をつないでください」
- 「横向きに寝かせてください」
- 「胸を押してください」
- 「大きな声で呼びかけてください」
これは口頭による応急処置指導です。
救急隊が到着するまでの間、
あなたの行動が命をつなぐ可能性があります。
「自分には何もできない」と思わなくていい
多くの方が、こう言います。
「何もできなくてすみませんでした」
しかし、救急隊の立場から言わせてもらうと、
- 正確に通報した
- 指示を聞いて行動した
- 落ち着いて対応した
これだけで、十分すぎるほどの協力です。
よくある誤解と注意点
❌ 軽そうだから呼ばなくていい
→ 判断は救急隊がします
❌ 自分で病院に連れて行く
→ 移動中に急変するケースがあります
❌ 通報後に電話を切る
→ 追加情報が伝えられません
救急車を呼ぶことは「迷惑」ではありません
「こんなことで救急車を呼んでいいのか」
この迷いが、通報を遅らせてしまうことがあります。
結果的に救急車が不要であったとしても、
通報したこと自体が間違いだったということはありません。
まとめ|119番通報で覚えておいてほしい5つのこと

最後に、もう一度まとめます。
- 場所を正確に伝える
- 何が起きたかをそのまま伝える
- 意識の有無を伝える
- 呼吸の様子を伝える
- 電話を切らず、指示に従う
この5つを意識するだけで、
あなたの通報は「非常に質の高い通報」になります。
突然の事故や急病時に、一般の方が「何をすべきか」を簡潔にまとめた実用書。
119番通報後、救急隊が到着するまでの行動を具体的にイメージしやすく、家庭に一冊あると安心です。
一次救急の基本から心肺蘇生・急変時対応までをマンガで分かりやすく解説。
119番通報後の応急対応を、もう一段深く理解したい医療学生・介護職・救急に興味のある方におすすめです。
参考・参照URL
本記事は、以下の公的機関・信頼性の高い情報を参考にしつつ、救急現場の一般的な知見をもとに構成しています。
■ 総務省消防庁
救急・119番通報に関する公式情報
■ 総務省消防庁
119番通報の適正利用・通報時のポイント
■ 東京消防庁
119番通報のかけ方・救急要請時の注意点
- https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/kyuuadv/kysoudan.htm
■ 日本赤十字社
応急手当・救命処置の基礎
- https://www.jrc.or.jp/activity/saigai/firstaid/
■ 日本救急医学会
救急医療に関する一般向け情報
※本記事は、消防庁・東京消防庁・日本赤十字社等の公開情報および、一般的な救急対応の考え方を参考に作成しています。実際の通報時は、通信指令員の指示に従って行動してください。
もっと医療情報を知りたい方はこちら👉呼吸苦(息苦しさ)の原因は4つだけ|呼吸器・心臓・血液・自律神経を徹底解説する総合ガイド(救急 × 国家試験 × 一般) — TETSU十郎/救急救命士/防災士
もっと医療情報を知りたい方はこちら👉「ふらつく・ぐるぐるする…原因は何?めまいを4タイプに分けてわかりやすく解説」 — TETSU十郎/救急救命士/防災士
もっと医療情報を知りたい方はこちら👉冬の入浴で“急に倒れる理由”──ヒートショックのメカニズムとリスク・予防法 — TETSU十郎/救急救命士/防災士
救急車を呼ぶ判断に迷う背景には、
「適正利用」への誤解や、
「様子見して後悔した事例」があります。
▶ 救急車の適正利用と「迷ったら119番通報」
▶ 救急車を呼んでいいのに“呼ばなかった人”が後悔した実例


