消化器系の中でも「胃」は国家試験で頻出の臓器の一つです。
特に胃の構造・分泌・運動・神経支配・臨床関連(胃潰瘍、嘔吐反射など)は、毎年何らかの形で出題されています。
今回は、救急救命士試験対策として、胃の生理学をわかりやすく整理していきます。
◆ 胃の位置と構造
胃(stomach)は、食道と十二指腸の間に位置し、上腹部の左側、横隔膜のすぐ下にあります。
大まかに4つの部分に分かれます。
- 噴門部(cardia):食道とつながる入口部分
- 胃底部(fundus):ガスが溜まりやすい上方の膨らみ
- 胃体部(body):胃の中心で、胃液の分泌が盛ん
- 幽門部(pylorus):十二指腸へ続く出口部分
幽門部には幽門括約筋があり、食物が小腸へ送り出されるタイミングを調整しています。
◆ 胃の主な働き
胃の生理的な役割は、大きく次の3つに分類されます。
① 食物の貯留
食道から送られてきた食物を一時的に貯めることで、腸への流入を調節します。
胃底部は伸展性が高く、食物量に応じて大きく拡張します。
この性質を受動的拡張と呼びます。
② 機械的な消化
胃の平滑筋がリズミカルに収縮して、食物を撹拌・混合します。
この収縮運動を**蠕動運動(ぜんどううんどう)といい、食物は細かく砕かれ、胃液と混ざって胃粥(いかゆ)**という半流動状になります。
③ 化学的な消化
胃液に含まれる酵素や酸によって、タンパク質を中心に化学的に分解します。
消化の主役はペプシンで、これは胃液の主成分であるペプシノーゲンが酸性条件下で活性化されて働きます。
◆ 胃液の成分と役割
胃液は1日に約1.5〜2.5L分泌され、主な成分は以下の通りです。
成分 | 分泌細胞 | 役割 |
---|---|---|
塩酸(HCl) | 壁細胞(傍細胞) | 酸性環境の維持、ペプシンの活性化、殺菌作用 |
ペプシノーゲン | 主細胞 | タンパク質分解酵素(ペプシン)に変化 |
粘液 | 粘液細胞 | 胃粘膜を酸や機械的刺激から保護 |
内因子(Intrinsic factor) | 壁細胞 | ビタミンB₁₂吸収に必須(欠乏で悪性貧血) |
特に、内因子は国家試験でも頻出です。
胃を切除するとビタミンB₁₂吸収ができず、巨赤芽球性貧血(悪性貧血)を発症します。
◆ 胃液分泌の調節
胃液の分泌は、神経性とホルモン性の両方で調整されています。
① 頭相(けいそう)
食べ物の匂いや味、視覚刺激で迷走神経が刺激され、胃液分泌が始まります。
この段階では条件反射的に分泌されるのが特徴です。
② 胃相
食物が胃に入ると、胃壁の伸展と胃内ペプチドの刺激により、ガストリンというホルモンが分泌されます。
ガストリンは壁細胞を刺激して胃酸分泌を促進します。
③ 腸相
食物が十二指腸へ流れると、セクレチンや**コレシストキニン(CCK)**が分泌され、胃酸分泌を抑制します。
これにより、胃と腸のバランスをとります。
◆ 胃の運動と排出機構
胃の蠕動運動は幽門部で最も強く、食物を小腸側へ押し出します。
しかし幽門括約筋が閉じているため、一部しか通過できず、残りは胃内に戻されます。
この動きを逆蠕動といい、食物をより細かく混合する役割を持ちます。
排出される速度は、内容物の性質によって変化します。
- 炭水化物 → 早い
- タンパク質 → 中程度
- 脂肪 → 遅い(胃排出抑制ホルモンが働く)
◆ 胃の神経支配
胃は主に自律神経系によって支配されています。
神経系 | 働き | 主な作用 |
---|---|---|
迷走神経(副交感神経) | 胃液分泌促進・蠕動促進 | 消化を活発にする |
交感神経 | 胃液分泌抑制・蠕動抑制 | 緊張・ストレス時に消化抑制 |
このため、ストレスが続くと胃潰瘍が悪化するのは、生理学的にも説明がつきます。
◆ 臨床関連(試験・現場で出るポイント)
● 胃潰瘍と胃粘膜防御
胃酸が強すぎたり、防御機構が弱まると、胃粘膜が損傷します。
主な原因はヘリコバクター・ピロリ感染やNSAIDs(解熱鎮痛薬)の使用です。
これらはプロスタグランジン合成阻害を通して粘液分泌を減らします。
● 嘔吐反射
嘔吐は延髄の「嘔吐中枢」で制御され、刺激は**迷走神経・内耳・化学受容器引金帯(CTZ)**などから入ります。
胃内容物の排出に伴い、脱水・代謝性アルカローシスを起こすことがあるため、救急現場では電解質バランスにも注意が必要です。
● 胃切除後症候群
胃の一部を切除した患者では、ダンピング症候群が見られることがあります。
これは、未消化の内容物が急速に小腸へ流れ込むことで、低血糖や血圧低下が起こる状態です。
◆ 救急救命士として押さえるポイント
- 嘔吐が続く患者は誤嚥リスクと脱水リスクを意識
- 意識障害者の胃内容物の逆流防止体位(回復体位)が重要
- 消化管出血を疑う黒色便やコーヒー残渣様嘔吐は上部消化管出血のサイン
これらはすべて、胃の生理学的理解が基礎となっています。
◆ まとめ
胃は単なる「食べ物の袋」ではなく、
消化・防御・ホルモン分泌・神経反射など多彩な機能を担う臓器です。
国家試験対策としては以下の点をしっかり覚えましょう。
✅ 胃の構造(噴門〜幽門)
✅ 胃液成分(塩酸・ペプシン・内因子)
✅ 胃液分泌の3相(頭相・胃相・腸相)
✅ 神経支配(迷走神経・交感神経)
✅ 臨床応用(胃潰瘍、嘔吐、ダンピング症候群など)
これらを体系的に理解しておくことで、
国家試験だけでなく、実際の現場での観察・対応にも役立ちます。
次回は「小腸の生理学」について、吸収メカニズムと救急現場での意義を解説していきます。