小腸の構造と働きを完全理解!〜吸収の最前線〜【救急救命士国家試験対策】

人が生きるうえで欠かせない「栄養吸収」。その主役となるのが、消化管の中でも最も長い器官――**小腸(しょうちょう)**です。
今回は、国家試験に頻出する「小腸の構造・生理・病態」を、救急現場の視点も交えて詳しく解説していきます。


小腸とは?〜長さはなんと6〜7m!〜

小腸は、胃から大腸へと続く消化管の一部で、全長は約6〜7メートルにもなります。
大きく以下の3つの部分に分かれます。

  1. 十二指腸(じゅうにしちょう)
     胃のすぐ後に続く約25cmの短い部分。膵液や胆汁が流れ込み、化学的消化の中心となります。
  2. 空腸(くうちょう)
     栄養素の吸収が最も盛んな部位。ヒダや絨毛が発達しており、吸収面積を飛躍的に拡大しています。
  3. 回腸(かいちょう)
     小腸の末端部で、大腸につながる部分。胆汁酸やビタミンB₁₂の再吸収が行われます。

小腸の構造的特徴〜吸収効率を極限まで高める仕組み〜

小腸の内壁は単なる管ではありません。そこには輪状ヒダ、絨毛(じゅうもう)、微絨毛という三重の構造が存在し、表面積を劇的に増やしています。
実際、その吸収面積は**テニスコート1枚分(約200㎡)**にも達するといわれています。

  • 輪状ヒダ(ケルクリングヒダ):粘膜が輪状に隆起し、内容物の流れを緩やかにする。
  • 絨毛(じゅうもう):ヒダの上に生える指状の突起。毛細血管とリンパ管(乳び管)を含む。
  • 微絨毛(びじゅうもう):さらにその表面にある微細な突起。吸収効率を最大化する。

これらの構造によって、小腸は効率的に栄養を取り込む装置として機能しています。


小腸の働き①:消化の最終段階

胃で分解された食物(=粥状の食塊:キームス)は、十二指腸に送り込まれます。
ここで、膵臓から分泌される膵液、肝臓から送られる胆汁、そして腸壁からの腸液が加わり、最終的な分解が行われます。

分泌液主な成分・酵素役割
膵液アミラーゼ・トリプシン・リパーゼ炭水化物・タンパク質・脂肪の分解
胆汁胆汁酸脂肪の乳化(=水と混ざりやすくする)
腸液ペプチダーゼ・マルターゼなど最終的な小分子化(アミノ酸、グルコースなど)

これにより、三大栄養素は以下の形にまで分解されます。

  • 炭水化物 → ブドウ糖(グルコース)
  • タンパク質 → アミノ酸
  • 脂質 → 脂肪酸+モノグリセリド

小腸の働き②:栄養吸収のメカニズム

小腸で分解された栄養素は、絨毛の毛細血管や乳び管を通じて体内に取り込まれます。

  • 糖・アミノ酸 → 毛細血管 → 門脈 → 肝臓へ
  • 脂肪酸・モノグリセリド → 乳び管 → 胸管 → 静脈へ

つまり、小腸で吸収された栄養素の多くはいったん肝臓に送られ、代謝や貯蔵の調整を受けるという流れです。
これは国家試験でもよく問われるポイントです。


小腸の働き③:ホルモンによる調整

小腸は単なる通り道ではなく、消化をコントロールする「内分泌器官」でもあります。
代表的なホルモンは以下の2つです。

ホルモン分泌部位主な作用
セクレチン十二指腸膵液(重炭酸イオン)の分泌促進、胃酸分泌の抑制
コレシストキニン(CCK)十二指腸胆嚢収縮、膵酵素分泌促進、胃排出抑制

これらのホルモンにより、胃から小腸への食物移動が調整され、消化吸収が効率よく進むようになっています。


救急現場で知っておくべき小腸疾患

救急救命士として、小腸に関する疾患を理解しておくことは非常に重要です。
代表的なものを簡単に整理しておきましょう。

イレウス(腸閉塞)

小腸や大腸の内容物が通過できなくなる状態です。
腹痛・嘔吐・膨満・排便・排ガス停止が主症状で、救急搬送頻度が高い疾患の一つ。
特に小腸イレウスでは、手術歴のある患者で癒着性閉塞が多く見られます。
重症化すると腸管壊死やショックに至るため、早期搬送が重要です。

消化吸収障害(セリアック病、短腸症候群など)

小腸絨毛の障害や切除によって吸収面積が減ると、下痢・体重減少・栄養失調を引き起こします。
輸液管理や栄養補給の重要性を理解しておくことが求められます。

小腸出血

大腸カメラや胃カメラでは発見しにくく、小腸カプセル内視鏡などが必要になることがあります。
救急現場では、原因不明の黒色便や貧血に注意しましょう。


小腸と水分吸収の関係

水分吸収は大腸のイメージが強いですが、実際には約80%の水分が小腸で吸収されています。
残り20%を大腸が回収して便の水分量を調整します。
そのため、小腸の障害(下痢や炎症)では急速な脱水が起こりやすく、電解質異常や循環不全に直結する点は臨床上の要注意ポイントです。


まとめ:小腸を理解すれば「体の栄養システム」が見えてくる!

項目内容
主な部位十二指腸・空腸・回腸
主な働き消化と栄養吸収
吸収の特徴ヒダと絨毛で表面積を拡大
主な吸収物質糖・アミノ酸・脂肪酸・水・電解質
主な疾患イレウス、吸収障害、出血
救急上の注意点脱水・ショック・嘔吐による誤嚥リスク

国家試験出題ポイント

✅ 小腸で最も吸収が盛んなのは「空腸」
✅ 胆汁酸・ビタミンB₁₂を吸収するのは「回腸」
✅ 小腸から分泌されるホルモンは「セクレチン」「CCK」
✅ 小腸で吸収された栄養は門脈を経て「肝臓」へ


小腸は「消化吸収の中心」であり、同時に「全身の代謝と循環の入口」でもあります。
救急救命士として、腹痛・嘔吐・脱水などの症状を見たとき、
この患者の小腸は正常に働いているか?”
という視点を持つことが、より確実な初期評価・搬送判断につながります。


次回は、大腸の働きと下痢・便秘のメカニズムについて詳しく解説します。

By TETSU十郎

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