「便を作る臓器」として知られる大腸(だいちょう)。
しかし、その役割は単なる排泄ではなく、体内の水分・電解質のバランス維持に大きく関係しています。
今回は、国家試験でもよく問われる「大腸の構造・働き・病態」を、救急現場の視点も交えて詳しく解説していきます。
◆ 大腸とは?〜長さ1.5m、太くて短い腸〜
大腸は、小腸の回腸から続く約1.5メートルの管状の臓器で、消化・吸収の最終段階を担います。
小腸で栄養素のほとんどが吸収された後、残った水分・電解質・未消化物を処理して便を形成するのが大腸の主な働きです。
大腸は、以下のような部位に分かれます👇
- 盲腸(もうちょう):小腸(回腸)と大腸の接続部。虫垂(ちゅうすい)が付属。
- 結腸(けっちょう):大腸の中心部分。上行・横行・下行・S状結腸に分かれる。
- 直腸(ちょくちょう):便を一時的に貯め、排便反射を引き起こす部位。
◆ 大腸の構造的特徴
大腸の壁は小腸と似ていますが、絨毛(じゅうもう)がないという大きな違いがあります。
その代わり、**腸腺(リーベルキューン腺)**が発達し、粘液を分泌して内容物の通過をスムーズにします。
また、結腸には特徴的な構造が見られます。
- 結腸ヒモ(けっちょうひも):縦走する筋線維。蠕動運動を効率化する。
- 結腸膨起(けっちょうぼうき):ヒモの収縮により生じる袋状の膨らみ。便を一時的にためる構造。
- 脂肪垂(しぼうすい):大腸の外側にぶら下がる脂肪組織。エネルギー貯蔵と保護の役割。
◆ 大腸の主な働き①:水分と電解質の吸収
小腸で吸収しきれなかった水分とNa⁺・Cl⁻などの電解質を、大腸が再吸収します。
小腸で約80%、残りの約20%の水分を大腸が回収することで、体の水分バランスを保ちます。
この吸収機能がうまく働かないと、
→ 水分が腸内に残りすぎて下痢になり、
→ 吸収されすぎると便秘になります。
つまり、大腸は「水分コントロールの最終関門」といえるのです。
◆ 大腸の主な働き②:便の形成と排泄
大腸内では、水分が吸収されることで内容物が次第に硬くなり、**便(solid stool)**が形成されます。
便の成分は以下の通りです。※ご自身の使用している教科書を参考にしてください。教科書により数値の誤差があります。
成分 | 割合(目安) |
---|---|
水分 | 約70〜75% |
食物繊維・未消化物 | 約10〜15% |
腸内細菌・剥がれた上皮細胞 | 約10〜15% |
形成された便は、S状結腸から直腸へと送られ、直腸壁の伸展により排便反射が誘発されます。
この反射では、副交感神経が刺激され、直腸の平滑筋が収縮、内肛門括約筋が弛緩します。
意識的に外肛門括約筋を開くことで、排便が完了します。
◆ 大腸の主な働き③:腸内細菌の活動
大腸内には約100兆個もの腸内細菌が生息しており、その総重量は1〜2kgにもなります。
彼らは、体内で次のような重要な働きをしています。
- 未消化物の発酵分解(短鎖脂肪酸などを生成)
- ビタミンK・ビタミンB群の合成
- 病原菌の増殖抑制(腸内フローラの維持)
腸内細菌の活動により、便が特有の臭気を持ち、また免疫機能も一定に保たれています。
抗生物質を長期間使用すると、このバランスが崩れ、偽膜性腸炎などを引き起こすことがあります。
◆ 大腸の主な働き④:蠕動運動と排便リズム
大腸では、内容物をゆっくりと移動させる「分節運動」や「蠕動運動」が行われています。
特に1日1〜2回起こる**大蠕動(mass peristalsis)は、内容物を一気に直腸へ送る強力な運動で、
通常は食後(胃結腸反射)**に誘発されます。
このリズムが乱れると、便秘や下痢といった症状につながります。
水分摂取不足・ストレス・生活リズムの乱れも影響するため、
救急現場では高齢者の慢性便秘やイレウスリスクにも注意が必要です。
◆ 救急現場での関連疾患
救急救命士として覚えておきたい「大腸に関連する主な疾患」を以下に整理します。
■ 急性虫垂炎(もうちょうえん)
盲腸に付属する虫垂が炎症を起こした状態。
初期は心窩部痛→右下腹部痛(マックバーニー点)に移動するのが特徴。
放置すると穿孔し、腹膜炎や敗血症に発展する危険があります。
■ 大腸イレウス(腸閉塞)
大腸の通過障害。
悪性腫瘍や糞便塞栓が原因となり、腹部膨満・嘔吐・排便停止を伴う。
早期に外科的治療が必要なケースも多く、嘔吐による誤嚥・脱水に注意。
■ 潰瘍性大腸炎・クローン病
自己免疫性炎症性疾患。
粘血便・下痢・体重減少などがみられ、長期的には癌化リスクもあります。
救急では脱水・電解質異常への初期対応が重要です。
◆ 救急救命士が押さえるべき大腸のポイント
- 大腸は水分・電解質の最終吸収部位である
- 結腸には「結腸ヒモ」「膨起」「脂肪垂」の特徴がある
- 腸内細菌はビタミンK合成や免疫維持に関与
- 排便反射には**副交感神経(仙髄)**が関与
- 救急現場では、便秘・イレウス・脱水・穿孔を見逃さないこと
◆ まとめ:大腸は「排泄の器官」ではなく「水分調整と免疫の要」
働き | 内容 |
---|---|
水分吸収 | 体内の水分バランスを維持 |
電解質吸収 | Na⁺・Cl⁻などを再吸収 |
便形成 | 内容物を固形化 |
腸内細菌 | 発酵・ビタミン合成・免疫維持 |
排便反射 | 副交感神経により制御 |
◆ 国家試験出題ポイント
✅ 大腸に絨毛はない
✅ 水分吸収は主に大腸で行われる
✅ 腸内細菌はビタミンKを合成する
✅ 排便反射は副交感神経によって起こる
大腸は、消化の最終ステージでありながら、体内の恒常性維持に欠かせない臓器です。
救急現場で「腹痛」「嘔吐」「便秘」「下痢」に遭遇した際、
その背景にある大腸の生理機能を理解しているかどうかが、正確な判断を左右します。