救急活動に従事していると、誰もが必ず一度はぶつかる感覚がある。
「自分はまだまだだ」
この感覚は不思議なもので、経験年数とは必ずしも比例しない。新人だけの話ではないし、ベテランになれば消えるものでもない。むしろ活動経験が増えるほど、自分の弱点がより鮮明に見えてくることさえある。
救急の現場は、訓練環境とはまったく異なる。
同じ傷病名であっても状態は毎回違い、同じ判断が通用する保証もない。環境も、家族の反応も、時間的制約もすべてが変化する。そうした不確実性の中で活動していると、自分の能力の「穴」が容赦なく露呈する瞬間が訪れる。
この記事では、救急隊員が現場で痛感しやすい弱点の正体と、それとの向き
合い方について整理してみたい。
実際の現場では、
「#7119に電話すべきか、119を使うべきか」
迷う場面が少なくありません。
▶ #7119に電話すべき?119に電話すべき?
▶ 救急車を呼んでいいのに“呼ばなかった人”が後悔した実例
■ 弱点は訓練ではなく「現場」で浮き彫りになる
訓練では問題なく実施できていた手技。
シミュレーションでは冷静に行えていた観察や判断。
しかし実際の現場では、同じようにできない。この経験は多くの救急隊員に共通するものだ。
その理由は明確である。
現場には以下のような特性が存在する。
・時間的プレッシャー
・観察情報の不足
・環境ノイズ(騒音・狭所・暗所など)
・家族や関係者の心理的影響
・想定外の展開
訓練ではコントロールされていた要素が、現場ではすべて不確定になる。
この「不確定要素の増加」こそが、弱点を顕在化させる最大の要因である。
人間の認知処理能力は有限であり、負荷が増加すれば精度は低下する。これは心理学的にも広く知られている現象であり、決して個人の資質の問題ではない。
参考として有名な概念に「認知負荷理論」がある。
救急活動はまさに高認知負荷環境と言える。
■ 救急隊員が現場で自覚しやすい代表的な弱点
実際の活動現場で多く語られる弱点には共通点がある。
● 観察が浅くなる
現場の緊張感や時間制約の中で、観察が表層的になってしまうケースは非常に多い。
・バイタルは測定した
・主訴は確認した
・既往歴も聞いた
それでも後から振り返ると重要な情報が抜けている。
観察不足というより、重要情報の抽出精度の問題であることが多い。
● 判断が遅れる
判断遅延は多くの隊員が抱える悩みのひとつである。
これは知識不足よりも、
✔ 優先順位付けの迷い
✔ 状況整理の未熟さ
✔ 確信を持てない心理
に起因する場合が多い。
● 手技が安定しない
訓練では問題ないが、現場では成功率が低下する。
この現象は「技術不足」ではなく、再現性の問題であることがほとんどである。
● 緊張で思考が狭窄する
いわゆるトンネルビジョン。
重要な異常を見逃す原因としても知られている。
● コミュニケーションがうまくいかない
救急活動は対人スキルの影響が極めて大きい。
医療知識よりも難しい場面すらある。
■ 弱点を自覚した瞬間が最も苦しい理由

弱点は指摘されるよりも、自分で気づいた時の方が精神的ダメージが大きい。
なぜなら、
「出来ていると思っていた前提」が崩壊するからである。
この心理的衝撃は非常に強く、活動意欲や自信の低下にも直結する。
しかし重要なのは、弱点の存在自体が問題なのではないという点である。
問題なのは「曖昧な認識」のまま放置されることである。
■ 弱点の正体は能力不足ではないことが多い
ここは極めて重要な視点である。
現場で感じる弱点の多くは、以下に分類できる。
✔ 整理不足
✔ 経験の構造化不足
✔ 判断基準の未固定化
✔ 再現性不足
つまり、才能やセンスの問題ではない。
この事実は非常に重要である。
救急判断におけるエラー研究でも、問題は知識量よりも状況処理過程にあると指摘されている。
■ 弱点との向き合い方(実践的対策)
● 弱点は「分解」する
「観察が苦手」ではなく、
・何の観察が弱いのか
・どの場面で崩れるのか
まで具体化する。
● 再現性で考える
偶然できた成功は武器にならない。
✔ なぜ出来たか
✔ 何が揃っていたか
を必ず言語化する。
● 判断基準を固定化する
迷いの多くは基準の曖昧さに起因する。
● メンタル要因を過大評価しない
緊張は消せない。
適応させるしかない。
■ 現場は弱点を責めているのではない
救急現場は極めて過酷な環境である。
そこで弱点が露呈するのは自然な現象であり、異常ではない。
重要なのは、
弱点を否定することではなく、扱える状態にすること。
■ まとめ

救急隊員にとって弱点とは、欠陥ではない。
成長の入口である。
完璧な隊員など存在しない。
違いがあるとすれば、
✔ 弱点を曖昧なまま放置するか
✔ 明確に認識し制御しようとするか
その姿勢だけである。
✅救急・医療現場の弱点/参照URL👇
■ ヒューマンエラー・認知バイアス系
✔ AHRQ(米国医療研究品質機構)
医療安全・判断エラー・システム要因の整理で非常に信頼性が高い。
特に救急系記事と相性が良い理由:
・個人責任ではなくシステム視点
・判断エラー研究が豊富
・医療ブログでの引用実績が多い
実際の現場では、
「#7119に電話すべきか、119を使うべきか」
迷う場面が少なくありません。
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▶ 救急車を呼んでいいのに“呼ばなかった人”が後悔した実例


