「血ガスは苦手」
「アシドーシス/アルカローシスは分かるけど、結局どう読めばいい?」
「代償?アニオンギャップ?もう頭が追いつかない…」
救急現場でABG(動脈血ガス)やVBG(静脈血ガス)を見たとき、こう感じた経験がある人は多いはず。
でも酸塩基平衡は、覚えるのではなく構造で理解すると一気に楽になる。
この記事では、救急隊・救急救命士の現場で必要な酸塩基平衡を
- 最小の暗記
- 最大の理解
- そのまま臨床判断に使える
この形にまとめる。
この記事で分かること
- 酸塩基平衡の「目的」と「守られている理由」
- **pH/PaCO2/HCO3-**を読む順番
- 代償が“なぜ起きるか”を生理から理解
- アニオンギャップと乳酸の考え方
- 混合性障害(mixed disorder)の気づき方
- 救急現場で頻出する原因(COPD、敗血症、DKA、嘔吐、利尿薬など)
酸塩基平衡とは何か?

**酸塩基平衡とは、「体液のpHを一定範囲に保つ仕組み」**のこと。
血液pHは通常 7.35〜7.45 に保たれている。これを外れると、酵素反応や電解質バランスが崩れて生命維持に影響する。
1. まず前提:pHがズレると何が困る?
pHは単なる数字ではない。
pHがズレると、
- 心筋収縮力低下
- カテコラミン反応性低下(アドレナリン効きにくい)
- 不整脈リスク上昇
- Kのシフト(致死性不整脈につながる)
- 意識障害・痙攣
など、救急の“重症感”そのものに直結する。
特に**アシデミア(pH低下)**では循環が破綻しやすい。
2. 酸は2種類ある:揮発性酸と不揮発性酸
ここが超重要。
✅ 揮発性酸(volatile acid)
- 正体:CO2(炭酸ガス)
- 排泄:肺(呼吸)
- 量:めちゃくちゃ多い(1日15,000〜20,000mEq規模)
✅ 不揮発性酸(non-volatile acid)
- 正体:乳酸・リン酸・硫酸など
- 排泄:腎臓
- 量:1日 約1mEq/kg/day 程度
この整理ができれば「呼吸性=CO2」「代謝性=HCO3-」がブレない。
(日本腎臓学会誌の解説が分かりやすい)
3. “守り”は3層構造:緩衝・呼吸・腎
酸塩基平衡は3段階で守られている。
① 緩衝系(秒〜分)
血液中にある緩衝物質が、pHの変化をすぐに抑える。
- 重炭酸(HCO3-)緩衝系が主役
- 他にヘモグロビン、タンパク、リン酸など
「緩衝」はあくまで“時間稼ぎ”。根本原因の排泄はできない。
② 呼吸(分〜時間)
CO2を吐く量(換気量)を変えて調整する。
③ 腎(時間〜日)
H+排泄とHCO3-再吸収を変化させる。
腎は強いが遅い。ここが臨床での“ズレ”を生む。
4. これだけ覚えればOK:Henderson-Hasselbalch式
pHは「CO2とHCO3-の比」で決まる。
pH = 6.1 + log ( HCO3- / (0.03 × PaCO2) )
つまり、
- **HCO3-(腎・代謝)**が増える → pH上がる(アルカローシス方向)
- **PaCO2(呼吸)**が増える → pH下がる(アシドーシス方向)
この関係さえブレなければ、読めるようになる。
5. 血ガスの読み方:順番がすべて

血ガスが苦手な理由は「読解ルートが無い」から。
読解は必ずこの順番。
【STEP1】pHを見る(酸性?アルカリ性?)
- pH < 7.35 → アシデミア
- pH > 7.45 → アルカレミア
【STEP2】PaCO2を見る(呼吸性?)
- PaCO2↑ → 呼吸性アシドーシス方向
- PaCO2↓ → 呼吸性アルカローシス方向
【STEP3】HCO3-を見る(代謝性?)
- HCO3-↓ → 代謝性アシドーシス方向
- HCO3-↑ → 代謝性アルカローシス方向
【STEP4】原因(主病態)を確定する
pHと同じ方向に動いている要素が「主原因」。
例)pH低い(アシデミア)+PaCO2高い
→ 呼吸性アシドーシスが主因
【STEP5】代償を確認する(これが現場力)
代償は「反対側が動いてpHを戻そうとする」現象。
ただし代償だけでpHが完全正常化は稀。
6. 4つの基本パターン(ここは確実に)
| 分類 | pH | PaCO2 | HCO3- | 代表原因 |
| 呼吸性アシドーシス | ↓ | ↑ | ↑(代償) | COPD増悪、鎮静、呼吸抑制 |
| 呼吸性アルカローシス | ↑ | ↓ | ↓(代償) | 過換気、不安、PE、低酸素 |
| 代謝性アシドーシス | ↓ | ↓(代償) | ↓ | 敗血症乳酸、DKA、腎不全、下痢 |
| 代謝性アルカローシス | ↑ | ↑(代償) | ↑ | 嘔吐、胃液喪失、利尿薬 |
呼吸性アルカローシスの評価でABGと電解質が重要という点も押さえておく。
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代償は「相棒システム」。
- 代謝性の異常 → 肺が代償
- 呼吸性の異常 → 腎が代償
MSDマニュアルの酸塩基平衡の概要が、臨床向けにすごく整理されている。
代償の時間差が超重要
- 呼吸代償:速い(分〜)
- 腎代償:遅い(時間〜日)
例えば呼吸性アシドーシスが急に起きた直後は、HCO3-はまだ上がらない。
**「慢性COPDか急性呼吸抑制か」**の判定にも関わる。
8. 代謝性アシドーシスは「アニオンギャップ」で分類せよ
代謝性アシドーシスは救急の主戦場。
このとき必ず見るのが アニオンギャップ(AG)。
AG = Na − (Cl + HCO3-)
AGは「測定していない陰イオンが増えていないか」を見る指標。
8-1. AGが高い代謝性アシドーシス(HAGMA)
「酸が増えている」タイプ。
- 乳酸アシドーシス(敗血症、ショック)
- ケトアシドーシス(DKA、飢餓、アルコール)
- 腎不全(尿毒症)
- 中毒(メタノール等:地域差あり)
この分類の臨床解説はStatPearls(NCBI)が読みやすい。
8-2. AGが正常の代謝性アシドーシス(NAGMA)
「HCO3-を失ってClが増える」タイプ。
- 下痢
- 腎性尿細管性アシドーシス(RTA)
- 大量輸液(生食過多)など
9. 混合性障害(Mixed disorder)を疑うコツ
ここが“できる救急隊”の領域。
代償って、だいたい「予測できる範囲」に収まる。
そこから外れたら混合性を疑う。
例:代謝性アシドーシスなのにPaCO2が下がってない
本来、代謝性アシドーシスなら過換気してPaCO2が下がるはず。
なのにPaCO2が高め → 呼吸性アシドーシス合併の可能性
(例:敗血症+疲弊/鎮静/COPD)
例:呼吸性アルカローシスなのにHCO3-が下がりすぎ
→ 代謝性アシドーシス合併
(例:過換気+乳酸上昇)
混合性は「ズレ」から見抜く。
10. 救急現場で頻出:病態別の血ガスイメージ
① COPD増悪(CO2貯留)
- pH ↓
- PaCO2 ↑
- HCO3- ↑(慢性代償があるなら)
② 敗血症ショック(乳酸アシドーシス)
- pH ↓
- HCO3- ↓
- PaCO2 ↓(代償:Kussmaul様)
③ DKA(ケトアシドーシス)
- pH ↓
- HCO3- ↓
- AG ↑
- PaCO2 ↓(深い呼吸)
④ 嘔吐・胃管吸引(代謝性アルカローシス)
- pH ↑
- HCO3- ↑
- PaCO2 ↑(代償)
11. 救急隊の判断に落とす:ABGで見るべき“危険サイン”
- pH < 7.20(循環破綻域に入りやすい)
- PaCO2が高いのに意識障害 → CO2ナルコーシス含め警戒
- 乳酸上昇+AG高値 → 組織低灌流(ショック・敗血症)を疑う
よくある勘違い(ここを潰せば強い)
❌「代償してるから大丈夫」
代償は“ヤバい状態を維持するための努力”であって治ってはいない。
❌「pHが正常だから正常」
混合性障害では、pHが正常域に見えても重症がある。
例:代謝性アシドーシス+呼吸性アルカローシス
→ pHが見かけ上正常になることがある。
まとめ:酸塩基平衡は「比」と「順番」で勝てる

最後に、今日から使える一文で締める。
- pHはHCO3-とPaCO2の比
- 読む順番は pH→PaCO2→HCO3-→代償
- 代償のズレ=混合性障害
これで血ガスは“暗記科目”から“読解科目”になる。
根拠(参考文献・ガイド)
- MSDマニュアル(家庭版)「酸塩基平衡の概要」
- MSDマニュアル(家庭版)「アシドーシス」
- MSDマニュアル(プロフェッショナル版)「呼吸性アルカローシス」
- StatPearls(NCBI Bookshelf)Physiology, Acid Base Balance
- StatPearls(NCBI Bookshelf)Anion Gap and Non-Anion Gap Metabolic Acidosis
- Shaw et al. “Acid–base balance: a review of normal physiology” (PMC)
- 日本腎臓学会誌PDF「酸塩基平衡」
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