吐血したら救急車を呼ぶべき?119番の危険なサインと正しい対処法を救急救命士が解説

突然、口から血を吐いたら、

「救急車を呼んだほうがいいの?」

「少量なら様子を見ても大丈夫?」

「真っ赤な血と黒っぽい血では、どちらが危険?」

と不安になるでしょう。

吐血(とけつ)とは、主に食道・胃・十二指腸などの上部消化管から出血した血液を、嘔吐によって口から吐き出すことです。

原因には、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、食道静脈瘤、マロリー・ワイス症候群などがあります。

ただし、

「血を吐いた=すべて救急車」ではありません。

一方で、吐血の中には大量の消化管出血によって全身状態が急速に悪化し、緊急の処置が必要になるケースがあります。

特に、

  • 明らかに大量の血を吐いた
  • 何度も吐血している
  • 意識がもうろうとしている
  • 失神した・倒れた
  • 呼吸がおかしい・強い息苦しさがある
  • 冷や汗が出て顔色が悪い
  • 立っていられないほど強くふらつく
  • 吐血と黒い便があり、全身状態も悪い

このような場合は、迷わず119番通報を優先してください。

吐血で大切なのは、見えている血の量だけで判断しないことです。

家庭では実際の出血量を正確に把握できません。

吐いた血が少なく見えても、消化管の中に血液が残っていたり、腸へ流れて黒い便として出ていたりする可能性があります。

そのため、

「何mL吐いたら救急車」

という数値だけではなく、

意識・呼吸・顔色・冷や汗・ふらつき・失神など、全身状態を合わせて判断することが重要です。

少量に見えて現在の状態が安定している場合でも、吐血が疑われるのであれば自己判断で何日も放置せず、医療機関へ相談・受診してください。

1.【結論】吐血で119番を呼ぶべき危険なサイン

吐血したときに最も重要なのは、

「どのくらい血を吐いたか」だけではなく、「その人の全身状態がどうなっているか」を確認することです。

家庭で出血量を正確に測ることは困難です。

見た目では少量に感じても、消化管の中へ出血していたり、血液が腸へ流れていたりする可能性があります。

次のような状態があれば、119番通報を優先してください。

明らかに大量の血を吐いた・吐血を繰り返している

明らかに大量の血を吐いた場合や、短時間に何度も吐血している場合は119番通報を優先してください。

食道・胃・十二指腸などから多量に出血している可能性があります。

また、一度に大量ではなくても、吐血を繰り返している場合は注意が必要です。

「1回あたりの量は少ないから大丈夫」

とは考えず、出血が続いているかどうかも確認してください。

意識がおかしい・失神した

吐血した人が、

  • 呼びかけへの反応が鈍い
  • ぼんやりしている
  • 会話がかみ合わない
  • 意識がもうろうとしている
  • 一時的に意識を失った
  • 突然倒れた

などの場合は緊急性があります。

大量出血によって循環する血液量が不足すると、脳への血流が低下し、意識状態に変化が現れたり、失神したりすることがあります。

一度意識が戻っても、

「今は普通に話せるから大丈夫」

とは限りません。

吐血に伴って失神したという事実そのものが重要な情報です。

冷や汗・顔面蒼白・強いふらつきがある

吐血とともに、

  • 冷や汗が出る
  • 顔色が明らかに悪い
  • 唇の色が悪い
  • 強いめまいがする
  • 立っていられないほどふらつく

などがみられる場合は、出血によって循環状態が悪化している可能性があります。

特に、

「吐血+冷や汗+顔面蒼白+強いふらつき」

といった状態には注意が必要です。

大量の出血によって出血性ショックへ進行する可能性もあるため、119番通報を優先してください。

呼吸がおかしい・強い息苦しさがある

吐血した人では、呼吸の状態も重要です。

  • 強く息苦しそう
  • 呼吸が明らかにおかしい
  • 普段どおりの呼吸をしていない
  • 血を吐いたあとに呼吸状態が悪くなった
  • 意識が悪く、呼吸もおかしい

このような場合は119番通報を優先してください。

大量に吐血した場合には、全身状態の悪化だけでなく、吐いた血液や胃内容物が気道へ入り、呼吸を妨げる危険もあります。

吐血した人では「意識」と「呼吸」の確認が非常に重要です。

吐血と黒い便があり、全身状態も悪い

食道・胃・十二指腸などから出血すると、血液のすべてが口から吐き出されるとは限りません。

血液の一部が腸へ流れ、消化管を通過する過程で変化すると、黒くタール状の便(黒色便・メレナ)としてみられることがあります。

吐血と黒い便に加えて、

  • 強いふらつき
  • 冷や汗
  • 顔色不良
  • 動悸
  • 失神
  • 意識がおかしい
  • 息苦しい

などがある場合は、消化管出血によって全身状態が悪化している可能性があります。

このような場合も119番通報を優先してください。

「血圧が正常」でも安心とは限らない

家庭に血圧計があると、

「血圧は正常だから大丈夫だろう」

と思うかもしれません。

しかし、家庭で測った血圧が正常というだけでは、重大な出血を否定できません。

出血の程度や経過によっては、初期には血圧低下が目立たない場合があります。

吐血したときは血圧の数字だけではなく、

  • 意識
  • 呼吸
  • 顔色
  • 冷や汗
  • めまい・ふらつき
  • 失神の有無
  • 吐血を繰り返しているか
  • 黒い便が出ていないか

などを合わせて確認してください。

明らかに全身状態が悪い場合は、血圧を何度も測ることに時間を使わず、119番通報を優先してください。

2.そもそも「吐血」とは?

吐血とは、消化管から出血した血液を、嘔吐によって口から吐き出すことです。

主な出血源となるのは、

  • 食道
  • 十二指腸

などの上部消化管です。

原因としては、

  • 胃潰瘍
  • 十二指腸潰瘍
  • 食道静脈瘤
  • マロリー・ワイス症候群
  • 胃や食道などの腫瘍

などがあります。

ただし、ここで覚えておきたいのが、

「口から血が出た=すべて吐血ではない」

ということです。

鼻血が喉へ流れ、その血を飲み込んだあとに吐き出す場合や、口の中から出血している場合もあります。

また、肺や気管支などの呼吸器から出血し、咳とともに血液を出す**「喀血(かっけつ)」**もあります。

一般の方が、

「胃からの血なのか」

「肺からの血なのか」

「鼻や口から出た血なのか」

を家庭で完全に判断する必要はありません。

大量に血が出ている、意識がおかしい、呼吸がおかしいなどの危険な状態であれば、原因を調べることより119番通報を優先してください。

3.吐血の色|赤い血と「コーヒーかす」のような吐物

「吐血」と聞くと、真っ赤な血を大量に吐く場面をイメージするかもしれません。

しかし、実際の吐血は必ずしも真っ赤とは限りません。

吐いた血液の色や性状は、

  • 鮮紅色
  • 暗赤色
  • 黒褐色
  • コーヒーかすのような状態

など、さまざまです。

鮮紅色〜暗赤色の吐血

比較的新しい血液や、短時間に多く出血している場合などでは、赤い血として吐き出されることがあります。

ただし、

「赤い血=必ず大量出血」

とは判断できません。

血液の見え方は、出血している場所や出血速度などによって異なるため、色だけで原因や重症度を判断することはできません。

コーヒーかすのような黒褐色の吐物

胃の中にある血液が胃酸などの影響を受けると、黒褐色に変化し、

「コーヒーのかすのような吐物」

として見えることがあります。

これをコーヒー残渣様吐物といい、上部消化管出血を疑う重要な所見の一つです。

そのため、

「真っ赤な血ではないから出血ではない」

「黒っぽいから血ではないだろう」

と自己判断しないようにしてください。

吐血は「色だけ」で緊急度を判断しない

大切なのは、

赤いか黒いかだけで、救急車が必要かどうかを決めないことです。

たとえば黒褐色の吐物でも、意識がおかしい、失神した、冷や汗が強い、顔色が悪い、強くふらつく、呼吸がおかしいなどの場合は緊急性が高い可能性があります。

反対に、鮮紅色だからといって見た目だけで出血部位や原因を特定することもできません。

吐血したときは、

「色+量+回数+全身状態」

を合わせて考えることが重要です。

4.吐血と喀血の違い

「口から血が出た」ときに混同されやすいのが、吐血と喀血です。

どちらも口から血液が出るため、一般の方には見分けにくいことがあります。

吐血とは?

吐血は、主に食道・胃・十二指腸などの消化管から出血し、嘔吐に伴って血液を吐き出す状態です。

吐き気や嘔吐を伴ったり、食物や胃内容物などが混ざったりすることがあります。

血液は鮮紅色・暗赤色の場合もあれば、胃の中で変化して黒褐色のコーヒー残渣様になる場合もあります。

喀血とは?

喀血は、肺や気管支などの呼吸器から出血し、咳とともに血液を出す状態です。

痰に少量の血が混ざる程度の場合もあれば、多くの血液を喀出する場合もあります。

吐血と喀血の違いを簡単に整理

特徴吐血喀血
主な出血源食道・胃・十二指腸など肺・気管支など
出方嘔吐に伴うことが多い咳に伴うことが多い
混ざるもの食物・胃内容物など痰・気泡など
色・性状鮮紅色〜暗赤色、黒褐色など赤い血がみられることがある

ただし、この違いはあくまで目安です。

色や見た目だけで、吐血と喀血を完全に区別できるわけではありません。

吐血か喀血か分からなくても大丈夫

突然口から血が出れば、

「これは吐血なのか?」

「それとも喀血なのか?」

と迷うでしょう。

しかし、救急車を呼ぶべきか判断するときに重要なのは、出血源を正確に診断することではありません。

大量に血が出ている、出血を繰り返している、意識や呼吸がおかしい、失神したなどの危険な状態があれば、

「吐血なのか喀血なのか分からないから様子を見る」

必要はありません。

出血源が分からなくても、危険な状態があれば119番通報を優先してください。

5.なぜ吐血すると危険なのか?

吐血で特に注意しなければならないのは、大量の出血によって全身の循環が維持できなくなることです。

食道・胃・十二指腸などから出血すると、血液は消化管の中へ流れ込みます。

出血量が多くなると、全身を循環する血液量が不足し、

  • 顔色が悪くなる
  • 冷や汗が出る
  • 脈が速くなる
  • めまい・強いふらつきが出る
  • 立っていられなくなる
  • 意識が遠のく
  • 意識がもうろうとする

などの症状が現れることがあります。

さらに状態が悪化すると、重要な臓器へ十分な血液を届けられない出血性ショックに陥る可能性があります。

「見えている血の量」だけでは分からない

ここで重要なのが、

「吐いた血の量=実際の出血量」とは限らない

ということです。

消化管から出血した血液が、すべて口から吐き出されるわけではありません。

血液の一部は胃や腸の中に残ったり、そのまま腸へ流れて黒い便として排出されたりすることがあります。

そのため、

「吐いた量はそれほど多くなかった」

という理由だけで安心することはできません。

吐いた血液や胃内容物が気道へ入る危険もある

吐血では、出血だけでなく呼吸への影響にも注意が必要です。

特に、大量に吐血した人の意識が悪くなった場合には、吐いた血液や胃内容物が気道へ流れ込み、呼吸を妨げる危険があります。

そのため吐血した人では、

「どれくらい血を吐いたか」だけではなく、「意識と呼吸が保たれているか」

を確認することが非常に重要です。

吐血したあとに、

  • 呼びかけても反応しない
  • 意識がもうろうとしている
  • 呼吸がおかしい
  • 普段どおりの呼吸をしていない

などがあれば、119番通報を優先してください。

吐血で見るべきなのは、血の色や量だけではありません。

最も重要なのは、意識・呼吸・顔色・冷や汗・ふらつきなど、その人の全身状態です。

6.吐血したときの正しい応急手当

突然、家族や目の前にいる人が血を吐けば、慌ててしまうでしょう。

しかし、家庭で吐血そのものを止めようとすることより重要なのは、

「意識と呼吸を確認する」

「無理に動かさない」

「危険な状態なら119番通報する」

ことです。

難しい処置をする必要はありません。

まず、その人の状態を確認することから始めます。

まず反応と呼吸を確認する

大量に吐血した人が倒れた、または反応がなくなった場合は、まず反応と呼吸を確認します。

呼びかけても反応がなく、

普段どおりの呼吸をしていない、または正常な呼吸か判断できない場合

は、

  • 119番通報
  • AEDの手配
  • 胸骨圧迫

を開始します。

周囲に人がいる場合は、一人ですべてを行おうとせず、

「あなたは119番してください」

「あなたはAEDを持ってきてください」

などと役割を分担してください。

意識がある場合は無理に歩かせない

吐血した人の意識があっても、

  • 強いふらつき
  • 冷や汗
  • 顔色不良
  • めまい
  • 立っていられない

などがある場合には、無理に歩かせないでください。

出血によって循環状態が悪化している場合、立ち上がったときに失神し、転倒する危険があります。

「歩けるから大丈夫」とは限りません。

本人が安全で楽な姿勢をとれるようにし、119番通報した場合には通信指令員の指示に従ってください。

意識が悪く、普段どおりの呼吸がある場合

反応がない、または意識が悪いものの、普段どおりの呼吸をしている場合には、吐いた血液や胃内容物による窒息にも注意します。

嘔吐がある場合などは、必要に応じて横向きの回復体位をとらせ、呼吸状態を継続して観察します。

ただし、転倒や転落などによって首や背骨を強く傷めている可能性がある場合には、不用意に動かさず、119番の通信指令員の指示に従ってください。

吐血した人を一人にしない

救急車を待っている間にも、状態が変化する可能性があります。

できるだけ一人にせず、

  • 呼びかけへの反応
  • 呼吸
  • 顔色
  • 冷や汗
  • 再び吐血していないか

などを確認してください。

さっきまで普通に話していた人でも、状態が急に悪化する可能性があります。

反応がなくなり、普段どおりの呼吸をしなくなった場合には、119番の通信指令員の指示に従い、胸骨圧迫などの心肺蘇生を開始します。

救急車を待つ間に準備する

119番通報したあと、余裕があり安全に準備できる場合には、

  • マイナ保険証など
  • お薬手帳
  • 普段飲んでいる薬
  • 診察券
  • 持病が分かるもの

などを準備しておくと、救急隊や医療機関での情報確認に役立ちます。

特に、抗凝固薬や抗血小板薬を飲んでいる場合や、肝硬変、食道静脈瘤、胃・十二指腸潰瘍、過去の消化管出血などがある場合には、その情報を救急隊へ伝えてください。

ただし、

準備のために119番通報を遅らせてはいけません。

危険な状態ならまず119番。

そのあと、救急車が到着するまでの時間を使って、安全にできる範囲で準備しましょう。

7.吐血したときにやってはいけないこと

吐血すると、

「水を飲ませたほうがいいのでは?」

「自分の車で急いで病院へ連れて行こう」

と考えるかもしれません。

しかし、状態によっては、その行動がかえって危険になることがあります。

無理に水や食べ物を与えない

特に、

  • 意識が悪い
  • 吐き気が強い
  • 嘔吐を繰り返している
  • うまく飲み込めない

場合には、水や食べ物を無理に与えないでください。

意識や飲み込む力が低下している人に飲食物を与えると、誤嚥や窒息につながる危険があります。

吐血後の飲食については、医療機関や119番の通信指令員などから指示がある場合には、その指示に従ってください。

無理に歩かせない

大量に吐血した場合や、強いふらつき、冷や汗、顔面蒼白などがある場合には、無理に歩かせないでください。

出血によって循環状態が悪くなっていると、移動中に失神して転倒する危険があります。

緊急性の高い状態では、無理に車まで移動させず119番通報を優先してください。

本人に車を運転させない

吐血した本人が、

「自分で病院まで運転する」

ことは避けてください。

ふらつきや意識状態の変化などがあれば、運転中に状態が悪化する可能性があります。

本人だけでなく、周囲を巻き込む事故につながる危険もあります。

119番が必要な状態であれば、救急要請を優先してください。

自己判断で薬を追加・中止しない

吐血したからといって、

  • 抗凝固薬
  • 抗血小板薬
  • その他の処方薬

などを自己判断で中止したり、反対に薬を追加したりしないでください。

薬を中止することにも別のリスクがあります。

薬の名前や最後に服用した時刻が分かれば、救急隊や医師へ伝え、服薬をどうするかは医療者の指示を受けてください。

「血が止まったから大丈夫」と判断しない

一度吐血したあと、しばらく血を吐かなくなることがあります。

しかし、

「今は血を吐いていない=原因となった出血が完全に解決した」

とは判断できません。

特に、大量に吐血した、何度も吐血した、黒色便がある、失神したなどの場合には、一時的に症状が落ち着いて見えても注意が必要です。

危険な状態があった場合は、「止まったから大丈夫」と自己判断しないでください。

8.救急隊・医師に伝えたい情報

吐血した人を医療機関へつなぐ際には、

「血を吐いた」という情報だけでなく、吐血する前後の状況も重要です。

安全に確認できる範囲で、次の情報を整理しておくと役立ちます。

いつ吐血したか

「午前○時ごろ」

「食事のあと」

など、おおよその時刻で構いません。

何回吐血したか

一度だけなのか、何度も繰り返しているのかを確認します。

現在も吐血が続いているかどうかも重要です。

おおよその量

正確に何mLか測る必要はありません。

たとえば、

  • 吐物に少し血が混じっていた
  • コップ1杯程度に見えた
  • 洗面器にかなりの量を吐いた

など、見たままを伝えれば十分です。

色や性状

  • 鮮紅色
  • 暗赤色
  • 黒褐色
  • コーヒーかすのようだった

など、分かる範囲で伝えます。

黒い便がないか

吐血以外に便の変化があれば、その情報も伝えてください。

特に、黒くタール状の便が出ている場合は重要な情報になります。

吐血以外の症状

  • 腹痛
  • めまい・ふらつき
  • 冷や汗
  • 顔色不良
  • 動悸
  • 息苦しさ
  • 失神
  • 意識状態の変化

などがあれば伝えてください。

「一度失神したが、今は意識が戻っている」

といった経過も重要です。

持病や過去の病気

特に、

  • 肝硬変
  • 食道静脈瘤
  • 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
  • 過去の消化管出血

などが分かれば伝えます。

普段飲んでいる薬

処方薬だけでなく、市販薬を含めて分かる範囲で伝えてください。

お薬手帳があれば、救急隊へ見せられるよう準備しておくと便利です。

吐血する前の状況

  • 激しい嘔吐を繰り返していた
  • 飲酒していた
  • 食事のあとだった

など、吐血前の状況も参考になります。

吐物をスマートフォンで撮影してもいい?

安全にできる状況であれば、吐物をスマートフォンで撮影しておくことも、色や性状、量を医療者へ伝える参考になります。

ただし、

写真を撮るために119番通報や応急手当を遅らせてはいけません。

また、吐物を確認するために素手で触ることは避けてください。

全部確認してから119番する必要はない

ここは重要です。

これらは、

「全部そろえてから119番するためのチェックリスト」ではありません。

危険な状態であれば、情報収集より先に119番通報してください。

そのあと、救急車を待つ間に安全に確認できる情報を整理すれば十分です。

🚑 「救急車を呼ぶべきか」で迷ったら
症状があるのに「もう少し様子を見よう」と迷うことがあります。 実際に救急車を呼ばなかったことで後悔するケースや、判断が遅れる危険性についても確認しておきましょう。
▶ 救急車を呼ばなかったことで後悔した事例 「呼ぶほどではない」と判断した結果、後から後悔するケースがあります。救急要請をためらいやすい場面と判断のポイントを解説します。 READ ARTICLE →

9.吐血を引き起こす主な病気

吐血の原因は一つではありません。

代表的なものには、

  • 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
  • 食道静脈瘤
  • マロリー・ワイス症候群
  • 胃がん・食道がんなど

があります。

ただし、吐いた血の色や量だけから、家庭で原因となる病気を特定することはできません。

ここでは、吐血の代表的な原因を知識として紹介します。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍

胃潰瘍や十二指腸潰瘍では、胃や十二指腸の粘膜が深く傷つき、血管まで達すると出血することがあります。

出血すると、

  • 吐血
  • コーヒーかすのような吐物
  • 黒色便
  • みぞおちの痛み
  • めまい・ふらつき
  • 顔色不良
  • 動悸

などがみられることがあります。

ただし、必ず腹痛が出るとは限りません。

「お腹が痛くないから、胃や十二指腸からの出血ではない」

とは判断できません。

「出血」と「穿孔」は別の病態

胃潰瘍・十二指腸潰瘍について知っておきたいのが、**穿孔(せんこう)**との違いです。

穿孔とは、胃や十二指腸の壁に穴が開く状態です。

一方、潰瘍によって血管が傷つけば出血を起こします。

つまり、

「胃・十二指腸潰瘍からの出血」と「穿孔」は別の病態です。

吐血や黒色便があるからといって、必ずしも胃や十二指腸に穴が開いているという意味ではありません。

食道静脈瘤からの出血

食道静脈瘤は、主に肝硬変などによって門脈の圧力が高くなり、食道周辺の静脈が拡張してできるものです。

この静脈瘤から出血すると、大量の吐血につながることがあります。

肝硬変や食道静脈瘤を指摘されている人、過去に食道静脈瘤から出血したことがある人が吐血した場合には、その既往歴を救急隊や医療機関へ伝えてください。

マロリー・ワイス症候群

激しい嘔吐やえずきを繰り返したあとに吐血した場合、マロリー・ワイス症候群が原因となることがあります。

食道と胃の境界付近の粘膜が傷つき、出血する病気です。

たとえば、

何度も激しく嘔吐する

その後、吐物に血が混じる

という経過でみられることがあります。

ただし、

「何度も吐いたあとだからマロリー・ワイスだろう」

と家庭で自己診断することはできません。

別の原因による消化管出血の可能性もあるため、吐血がみられた場合は医療機関へ相談・受診してください。

胃がん・食道がんなど

胃や食道などの腫瘍から出血し、吐血や黒色便が起こることもあります。

吐血を繰り返す場合や、

  • 黒色便が続く
  • 貧血を指摘されている
  • 食欲低下が続いている
  • 体重減少などの変化がある

場合には、症状が落ち着いていても医療機関で原因を調べることが大切です。

10.吐血と「黒い便」が一緒に出るのはなぜ?

吐血した人に、黒い便がみられることがあります。

これは、上部消化管から出血した血液が腸へ流れることがあるためです。

食道・胃・十二指腸などから出血すると、血液の一部が吐血として口から出るだけでなく、そのまま腸へ流れて便として排出されることがあります。

血液が消化管を通過する過程で変化すると、

黒く、タール状の便

としてみられることがあります。

このような便を**黒色便(メレナ)**と呼びます。

黒い便=すべて消化管出血ではない

ただし、

「便が黒い=必ず消化管から出血している」

というわけではありません。

便が黒く見える原因には、鉄剤など一部の薬剤や食べ物が関係する場合もあります。

そのため、便の色だけで消化管出血と断定することはできません。

一方、吐血と黒色便があり、さらに全身状態が悪い場合には注意が必要です。

便の色だけではなく、吐血の有無と全身状態を合わせて判断してください。

11.吐血したら確認したい「普段飲んでいる薬」

吐血した人では、普段飲んでいる薬の情報が重要になることがあります。

特に確認しておきたいのが、

  • 抗血小板薬
  • 抗凝固薬
  • NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)

などです。

抗血小板薬・抗凝固薬

心筋梗塞、脳梗塞、心房細動などの治療・予防のために、血液を固まりにくくする薬が処方されていることがあります。

吐血した人がこれらの薬を服用している場合には、薬の名前が分かれば救急隊や医療機関へ伝えてください。

薬の名前を覚えていなくても、お薬手帳があれば服薬内容を確認できます。

ただし、

吐血したからといって、処方されている薬を自己判断で中止・変更しないでください。

服薬をどうするかについては、医師など医療者の指示を受けてください。

NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)

痛み止めとして使われる一部のNSAIDsは、胃・十二指腸潰瘍や消化管出血のリスクに関係することがあります。

そのため、吐血した場合には、

「最近、痛み止めを飲んでいなかったか」

という情報も確認しておきましょう。

処方薬だけではなく、市販の鎮痛薬を使用している場合もあります。

お薬手帳に記載されていない市販薬を飲んでいる場合は、商品名なども分かる範囲で医療者へ伝えてください。

12.高齢者の吐血で注意したいこと

高齢者が吐血した場合も、吐いた血の量だけで緊急度を判断しないことが重要です。

高齢者では、消化管出血があっても症状がはっきりしないことがあります。

たとえば、

  • 「少し気持ち悪い」としか言わない
  • 強い腹痛を訴えない
  • 急に元気がなくなる
  • 立つとふらつく
  • 急に歩けなくなる
  • ぼんやりしている
  • 会話がいつもと違う

など、吐血そのものよりも全身状態の変化が目立つことがあります。

そのため、

「少ししか血を吐いていないから大丈夫」

「お腹を痛がっていないから重症ではない」

とは考えないようにしてください。

「普段と違う」は重要な情報

高齢者では、

「いつもと比べて明らかに様子がおかしい」

という家族や周囲の人の気づきも重要です。

吐血後に、

  • 急にぐったりした
  • 立てなくなった
  • 歩けなくなった
  • 会話がかみ合わない
  • 呼びかけへの反応が鈍い

などの変化があれば、そのことを救急隊や医療機関へ伝えてください。

高齢者では普段の薬も確認する

高齢者では、心房細動、心筋梗塞、脳梗塞などの治療や予防のために、抗凝固薬や抗血小板薬などを服用している場合があります。

可能であれば、

  • お薬手帳
  • 普段飲んでいる薬
  • 市販薬
  • 過去に消化管出血を起こしたことがあるか

などを確認しておきましょう。

ただし、ここでも優先順位は同じです。

危険な状態であれば、薬や既往歴を調べることより119番通報を優先してください。

13.少量の吐血でも大丈夫とは限らない

吐血したとき、

「どのくらいの量なら救急車を呼ぶべきなのか?」

と気になる方は多いでしょう。

しかし、吐血の緊急度は見えている血液量だけでは判断できません。

家庭では、血液が胃内容物などと混ざるため、実際の出血量を正確に把握することが困難です。

さらに、出血した血液のすべてが吐血として外へ出るとは限りません。

胃や腸の中に残ったり、黒色便として排出されたりすることもあります。

そのため、

「○mL以上なら119番、○mL未満なら大丈夫」

という数値だけでは判断できません。

「少量だから放置」も「血を見たらすべて119番」も違う

少量の血が混じっただけに見える場合でも、原因によっては医療機関での評価が必要です。

一方で、

「少量の血が混ざった=必ず大量出血している」

という意味でもありません。

つまり、

「少量だから放置する」

ことも、

「少しでも血が出たら、すべて救急車を呼ぶ」

ことも適切ではありません。

吐血は「量+回数+全身状態」で考える

吐血したときは、

① どのくらい血を吐いたか
② 何回吐いたか
③ 出血が続いているか
④ 意識は普段どおりか
⑤ 呼吸は普段どおりか
⑥ 顔色が悪くないか
⑦ 冷や汗が出ていないか
⑧ めまい・強いふらつき・失神がないか
⑨ 黒い便が出ていないか
⑩ 持病や服薬があるか

などを合わせて考えることが重要です。

少量でも何日も様子を見るのは避ける

少量の血が一度混ざっただけで、現在は症状が落ち着いている場合には、必ずしもすべて救急車が必要とは限りません。

しかし、吐血が疑われるのであれば、

「少量だから何日か様子を見よう」

と自己判断で長期間放置することは勧められません。

口から出た血液が、

  • 消化管からの出血
  • 呼吸器からの出血
  • 鼻から流れ込んだ血液
  • 口の中からの出血

のどれなのか、家庭では正確に判断できないこともあります。

少量でも吐血が疑われる場合には、医療機関へ相談・受診してください。

14.119番・救急相談・医療機関受診の判断目安

ここまでの内容を、実際の行動に結びつけて整理します。

吐血したときは、次の3段階で考えると分かりやすくなります。

危険なサインがある → 119番

全身状態は安定しているが判断に迷う → #7119などの救急相談

少量でも吐血が疑われる → 医療機関へ相談・受診

こんなときは119番を優先

次のような場合は、救急相談を挟まず119番通報を優先してください。

  • 明らかに大量の血を吐いた
  • 吐血を繰り返している
  • 意識がもうろうとしている
  • 呼びかけへの反応がおかしい
  • 失神した・倒れた
  • 普段どおりの呼吸をしていない
  • 強い息苦しさ・呼吸異常がある
  • 冷や汗が出て顔色が著しく悪い
  • 立っていられないほど強くふらつく
  • 吐血と黒色便があり、全身状態も悪い
  • 急速に状態が悪化している

このような場合、

「何の病気なのか」

を家庭で判断してから救急車を呼ぶ必要はありません。

吐血なのか喀血なのか分からない場合でも、大量出血や意識・呼吸の異常などがあれば119番です。

救急車を呼ぶべきか判断に迷ったら

少量に見え、現在は意識や呼吸などの全身状態が安定しているものの、

「救急車を呼ぶほどなのか?」

「今すぐ病院へ行ったほうがいいのか?」

と判断できないことがあります。

このような場合は、実施地域であれば救急安心センター「#7119」などへ相談する方法があります。

ただし、

  • 明らかな大量出血
  • 意識がおかしい
  • 呼吸がおかしい
  • 失神した
  • 冷や汗・顔面蒼白がある
  • 強いふらつきがある
  • 急速に状態が悪化している

などの場合は、#7119への相談を挟まず119番通報を優先してください。

少量でも吐血が疑われたら医療機関へ相談・受診

少量の血が一度混ざっただけで、現在は症状が落ち着いている場合でも、吐血が疑われるのであれば放置は勧められません。

一度吐血が止まったように見えても、原因となった出血が完全に解決したとは限りません。

そのため、

「少量だから数日様子を見る」

のではなく、医療機関へ相談・受診してください。

吐血したときの判断をシンプルに整理

大量・反復する吐血
119

意識がおかしい・失神した
119

呼吸がおかしい・強い息苦しさがある
119

冷や汗・顔面蒼白・強いふらつき
119

吐血+黒色便+全身状態が悪い
119

全身状態は安定しているが判断に迷う
実施地域では#7119などへ相談

少量でも吐血が疑われる
放置せず医療機関へ相談・受診

最も大切なのは、

「何mLの血を吐いたか」だけで救急車の必要性を判断しないことです。

15.よくある質問(FAQ)

Q.少量の血を吐いただけでも救急車を呼ぶべきですか?

少量の血が混ざっただけで、すべてのケースで救急車が必要とは限りません。

ただし、

「少量だから大丈夫」

とも言い切れません。

少量でも吐血が疑われる場合は、自己判断で何日も放置せず、医療機関へ相談・受診してください。

一方、明らかな大量出血や意識・呼吸の異常、失神などがあれば119番通報を優先してください。

Q.何mL吐血したら救急車を呼ぶべきですか?

「○mL以上なら119番」という数値だけで判断することはできません。

家庭では実際の出血量を正確に把握することが困難です。

そのため、

量+回数+意識+呼吸+顔色+冷や汗+ふらつき+失神

などを合わせて判断することが重要です。

Q.真っ赤な血を吐きました。黒い血より危険ですか?

血の色だけで緊急度を判断することはできません。

鮮紅色〜暗赤色の吐血がみられることもあれば、胃の中で血液が変化して黒褐色のコーヒー残渣様吐物としてみられることもあります。

色だけではなく、量・回数・全身状態を合わせて判断してください。

Q.コーヒーかすのようなものを吐きました。血ですか?

胃の中で血液が変化すると、黒褐色でコーヒーのかすのような吐物として見えることがあります。

これをコーヒー残渣様吐物といい、上部消化管出血を疑う重要な所見の一つです。

自己判断で放置せず、医療機関へ相談・受診してください。

全身状態が悪い場合は119番通報を優先します。

Q.吐血したあと、血が止まりました。もう大丈夫ですか?

一度吐血が止まったように見えても、それだけで原因となった出血が完全に解決したとは判断できません。

特に、大量に吐血した、何度も吐血した、黒色便がある、失神したなどの場合には注意が必要です。

現在は落ち着いていても、吐血が疑われる場合は医療機関へ相談・受診してください。

Q.吐血したら水を飲ませたほうがいいですか?

特に、

  • 意識が悪い
  • 吐き気が強い
  • 嘔吐を繰り返している
  • うまく飲み込めない

場合には、無理に水や食べ物を与えないでください。

誤嚥や窒息につながる危険があります。

Q.吐血か喀血か分かりません。それでも救急車を呼んでいいですか?

危険な状態があれば、吐血か喀血か分からなくても119番通報してください。

一般の方が吐血と喀血を完全に見分ける必要はありません。

重要なのは、出血源を家庭で診断することではなく、その人に危険な状態が起きていないかを確認することです。

Q.血圧が正常なら救急車を呼ばなくても大丈夫ですか?

血圧が正常というだけでは、重大な出血を否定できません。

吐血では、

  • 意識
  • 呼吸
  • 顔色
  • 冷や汗
  • めまい・ふらつき
  • 失神
  • 出血の量・回数
  • 黒色便

などを合わせて確認してください。

明らかに全身状態が悪い場合は、何度も血圧を測ることに時間を使わず119番通報を優先してください。

Q.吐血したら自分の車で病院へ行ってもいいですか?

全身状態が安定している場合には、必ずしもすべて救急車で搬送する必要があるとは限りません。

ただし、

  • 大量に吐血した
  • 吐血を繰り返している
  • 失神した
  • 強いふらつきがある
  • 冷や汗・顔面蒼白がある
  • 意識がおかしい
  • 呼吸がおかしい

などの場合には、無理に車まで歩かせたり、本人に運転させたりせず、119番通報を優先してください。

16.まとめ|吐血は「量」だけでなく全身状態を見る

吐血は、主に食道・胃・十二指腸などの上部消化管からの出血によって起こります。

原因には、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、食道静脈瘤、マロリー・ワイス症候群などがあります。

しかし、家庭で最も重要なのは病名を当てることではありません。

吐血で覚えておきたい3つのポイント

血の量だけで判断しない

家庭では実際の出血量を正確に把握することは困難です。

意識・呼吸・顔色・冷や汗・ふらつき・失神など、全身状態を合わせて判断してください。

危険な状態なら吐血か喀血かを見分ける必要はない

口から血が出たとき、消化管からの吐血なのか、呼吸器からの喀血なのか分からないことがあります。

しかし、大量出血や意識・呼吸の異常などがあれば、出血源の判断より119番通報を優先してください。

病名を考える前に「今、危険か」を確認する

胃潰瘍なのか。

食道静脈瘤なのか。

マロリー・ワイス症候群なのか。

家庭で病名を当てる必要はありません。

大切なのは、

「病名を当てること」ではなく、「今、この人に危険な状態が起きていないか」を判断することです。

大量・反復する吐血、意識や呼吸の異常、失神、冷や汗、顔面蒼白、強いふらつきなどがあれば、原因を判断することに時間を使わず119番通報を優先してください。

参考文献・参考情報

この記事を作成するにあたり、以下の公的機関・学会等の情報を参考にしています。

※この記事は、吐血した際の救急要請や受診判断について一般向けに解説したものです。個別の病気の診断や治療を目的とするものではありません。実際の症状については医療機関へ相談し、意識・呼吸の異常や大量出血など緊急性の高い状態では119番通報を優先してください。

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