1. はじめに:数字の裏に「命のサイン」がある
救急現場でまず確認するバイタルサインのひとつが「SpO₂(エスピーオーツー)」です。
患者の指先につけるだけで酸素飽和度が分かるサチュレーションモニター(パルスオキシメータ)は、今や救急・在宅・一般診療でも欠かせない存在となりました。
しかし、「SpO₂=酸素が足りている」「90%以上なら安心」と単純に考えてしまうと、重大な見落としにつながることもあります。
本記事では、救急救命士・医療学生・看護師・介護職など、幅広い読者に向けて、サチュレーションモニターの正しい理解と使い方を徹底的に解説します。
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2. SpO₂とは? 動脈血中の酸素を「光」で見る
SpO₂(Peripheral capillary oxygen saturation)とは、末梢血中のヘモグロビンに結合している酸素の割合を示す指標です。
パルスオキシメータは、赤色光と赤外光を利用して指先などを透過させ、酸素化ヘモグロビン(HbO₂)と還元ヘモグロビン(HHb)の吸収率の違いから算出します。
この数値は動脈血酸素飽和度(SaO₂)と非常に相関が高く、侵襲のない酸素モニタリングとして世界的に普及しました。
救急救命士テキストにも明記されているように、「SpO₂ ≒ SaO₂」と考えてよい場面が多いですが、実際にはいくつかの“落とし穴”があります。
3. 測定原理を理解すると誤差の理由が見える
サチュレーションモニターは「光の吸収」を利用するため、血流が十分にあることが前提です。
つまり、冷感・ショック・低体温などで末梢循環が悪化すると、測定値が実際より低く出たり、まったく反応しなかったりします。
また、次のような“誤差要因”にも注意が必要です。
| 要因 | 測定値への影響 |
|---|---|
| ネイルポリッシュ(特に黒・青系) | 光を吸収し、低値を示す |
| 末梢冷却(寒冷環境・ショック) | 低値または測定不能 |
| 強い外光(直射日光・白色LED) | 光干渉により誤差 |
| 体動・震え | 波形乱れによる低値 |
| 一酸化炭素中毒 | “偽高値”を示す(COHbをHbO₂と誤認) |
特に救急現場では、これらの条件が揃いやすいため、「数値だけで判断しない」姿勢が何より大切です。
4. 正しい装着方法と観察ポイント
パルスオキシメータの精度を高めるには、装着部位・波形の確認・環境整備の3点が重要です。
- 装着部位:成人では指先が基本。末梢循環が悪い場合は耳朶や足趾も検討。
- 波形確認:SpO₂と同時に脈波(プレチスモグラム)を表示できる機種では、波形が安定していることを確認。
- 環境整備:手を温める、直射日光を避ける、体動を最小限にする。
このように、「数字」よりもまず「波形と現場状況」を見ることがプロの判断につながります。
5. SpO₂の評価と酸素投与の目安
酸素飽和度の基準値は以下のとおりです。
| 状態 | SpO₂(目安) | 対応の基本方針 |
|---|---|---|
| 正常 | 96〜100% | 経過観察 |
| 軽度低下 | 91〜95% | 原因検索・再測定 |
| 中等度低下 | 86〜90% | 酸素投与開始を検討 |
| 高度低下 | 85%以下 | 直ちに酸素投与、必要時に換気補助 |
ただし、COPD患者では過剰な酸素投与によってCO₂ナルコーシスを誘発するリスクがあるため、SpO₂ 88〜92%程度を目安に調整します(日本呼吸器学会COPDガイドライン2022〔第6版〕より)。
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6. 救急現場での「SpO₂の読み方」
救急現場では、SpO₂は「今の呼吸状態」を表す“瞬間の情報”です。
そのため、数値の変化を追うことが何より重要です。
たとえば──
- 98%→92%→88%と下降している場合:呼吸不全進行の可能性。
- 85%から90%へ上昇している場合:酸素投与や体位管理の効果が出ている可能性。
また、「SpO₂が安定していても、呼吸数が増加している」場合は、酸素化が維持されても呼吸仕事量が増している危険なサインです。
SpO₂単独ではなく、呼吸数・意識レベル・チアノーゼの有無などと合わせて評価するのが鉄則です。

7. モニター異常を見抜く“現場の目”
SpO₂値が異常に低い/高いとき、次のような現場確認を行うと判断精度が上がります。
- 脈拍数が一致しているか?
→パルスオキシメータの脈拍数と橈骨動脈での触知脈拍を比較。 - 波形が安定しているか?
→脈波がノイズだらけなら、値は信頼できない。 - 装着部が冷えていないか?
→毛布やホットパックで温めて再測定。 - 爪・皮膚の状態
→マニキュア・汚れ・浮腫などが光の透過を妨げていないか確認。
これらの確認を怠ると、「人工呼吸器のトラブル」と誤認して不要な処置を行うケースもあります。
モニターは万能ではなく、“現場の感覚”と組み合わせてこそ真価を発揮します。
8. まとめ:数字の奥にある「命のサイン」を読む
サチュレーションモニターは、シンプルな機器ながらも、読み解く力次第で患者評価の精度が大きく変わります。
とくに救急・初療・在宅では、SpO₂の変化を「ただの数字」ではなく、「生体のSOS」として読む感性が重要です。
「モニターは患者を診ない。あなたが患者を診る。」
救急救命士も看護師も、この言葉を胸に刻んでおきたいですね。
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